今、中山間地域の農業は大きな変革期にある。中山間地域では高齢化・人口減少と後継者不足により農業をやめようとする人や農地を手放そうとする人が急増している。この状態は、農地の受け手がいない場合には耕作放棄地の急拡大による農村崩壊をまねきかねない危機であるが、経営規模拡大をめざす農業者や農業新規参入者など、あたらしい農業を進めようとする者のいる場合には農業と農村が新しく生まれ変わる大きなチャンスである。農地をこれほど容易に入手あるいは譲渡できる時代はかつてなかったからである。将来の中山間地域の農業はこの新しい農業の担い手によって再構築されるだろう。そして、農村社会はこの変化に対応して再編成されるにちがいない。ここでは志賀郷地区の将来を考えるのに役立つ情報を集めました。
参考書籍
撤退の農村計画―過疎地域からはじまる戦略的再編 林直樹他 学芸出版社
かしこく収縮する農村についての議論
農村社会の衰退と撤退の農村計画
令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート―新たな地域別将来推計人口から分かる自治体の実情と課題― 令和 6 年 4 月 24 日 人口戦略会議
綾部市のデータは26ページにあります。「2020年から2050年までの間の若年女性減少率が20%~50%。自然減対策が必要 社会減対策が必要。」となっています。
*自然減とは出生数より死者数が多いことによる減少、社会減とは転入数より転出数が多いことによる減少です。
日本経済の高度成長とともに始まった都市への人口流出による中山間地域の農業・農村の縮小衰退はバブルが崩壊した20世紀の末までつづきました。そして21世紀初頭には多くの農村は限界集落(地域人口の50%以上が65歳以上の集落)になりました。現在は構成員の多くが後期高齢者(75歳以上)となり、人口の自然減による農村社会の縮小と従来型農業経営の崩壊がすすんでいます。このままいけば10年後には多くの農村が消滅してしまうかもしれません。
しかしこの間、農業には新しい大きな変化が起こりました。たとえば、構造改善事業を経て整備された農地の流動化と集積がはじまり、現在では地域の歴史上かつてない規模(中規模:数十ha)の稲作農業経営体がうまれています。有機肥料・低化学農薬栽培したコメを直売する稲作中規模経営体が活躍しています。また、SNS・インターネットを駆使して直売をおこなう新しいタイプの小規模野菜農家が活躍しています。
21世紀は生産性向上だけではなく地球環境保護・持続可能な生産・顧客ニーズ対応を重視した新しい農業の時代です。また、農村には都会にはない自由で多様な生活様式の可能性も期待されています。時代の激変をへて生まれたこれら中規模稲作経営体や新タイプの野菜農家はこのあたらしい時代の農業を切りひらき、農村社会はそれに合わせて再編成されていくに違いありません。
・「里山資本主義」の著者である藻谷浩介氏はあるテレビ番組で、「過疎化地域の生き残り策の成功事例には2つのタイプがある。」と述べ、以下の2つを紹介していました。
①起業家を呼び込み稼ぐ力を強化して地域経済を活性化する(藻谷氏の言う里山資本主義です)。(例)島根県隠岐の島の海士町
②近隣の都市部のサラリーマンがすみやすい地域をつくりベッドタウンとして発展する。(例)富山県舟橋村
これら2つのタイプは志賀郷地区の将来を考えるためのヒントとなります。かつての志賀郷地区はそのような地域でした。まず、この地域には多くの人々が住み、専業・兼業農家として農業で稼いでいました。すなわち、地域の主要な産業(稼ぐ力)は農業でした。また多くの兼業農家の家族は近隣の都市部(綾部・福知山・舞鶴)に通うサラリーマンとなりその稼ぎを地域に持ち込んでいました。つまり、この地域は近隣都市部のベッドタウンとして機能していました。そしてこれら稼ぐ人々を相手に商店・職人・サービス業など多くの人々(これらの多くも兼業農家)が働いて地域経済を回していました。つまり、藻谷氏の言う里山資本主義が機能していたのです。その後、高度経済成長とそれにともなう大都市への人口移動に伴いこの地域は過疎地に変貌し現在では限界集落となりました。しかし、その現在であってもこの地区は農業者あるいはこれまで農業に取り組んできた人々と都市部で働くあるいは働いてきた人々のための居住地として存続しています。
私たちは典型的な中山間地域である志賀郷地区のめざすべき将来像は「スマートなつよい農業経営体を核としながらかしこく収縮する(ゆたかな)農村」だと考えます。*( )に入る言葉は人それぞれに異なると思います。
地域の将来像として「スマートな強い農業経営体が核となる」理由は、経済的自立力(稼ぐ力, 産業力)のない農村はこの激動期を乗り切って存在していくことができないからです。では経済的自立力はどのようにして獲得できるのでしょうか。現在の志賀郷地区がもつ最大の資源は構造改善事業を終えて改良された農地・農道と昔から維持されてきたため池や水路などの灌漑施設と農業のために皆で協力する農村文化です。この資源をかしこく利用して農業と農地利用ビジネスにより経済的自立をはかるのが最も可能性の高い確実な方法です。もちろん将来、これとは別の資源も開発されるかもしれません。その時にはその資源利用も含めて地域の経済的自立力を強化することになります。
農業としては、まず稲作農業です。稲作は土地利用型農業の典型です。農村の景観は地域農業の特徴をつよく反映したものとなります。北海道の酪農地帯の景観、長野の高原野菜地帯の景観、青森のリンゴ生産地帯の景観、宇治の茶どころの景観を考えればわかります。現在の志賀郷地区の景観は稲作のための水田を基本とする里山景観です。したがって、強い稲作経営体が存在する限り、今の志賀郷地区の里山景観は維持されます。強い稲作経営体の存在がこの地域の農村景観の大枠を決めるわけです。将来、この地域の農村景観が変わるとすれば、それはこの地域の主要な農業経営様式の変化によってかわるのであって、農業経営のありかたと無関係に農村景観が変化することはありません。
つぎに、野菜・果樹農業です。野菜・果樹農業は労働集約型農業です。稲作ほど耕作面積がなくても稼いで行けます。小さくても活発に働いてしっかり稼ぐことのできる若者向けの農業です。やり方によっては大きなビジネスに発展する可能性のあるチャレンジングな農業です。しかも、労働集約型農業なので地域に仕事(パート労働)を提供する可能性が有ります。このような農家が地域の里山資本主義を回して農村に若さと活気と夢とゆたかさをもたらすに違いありません。
最後に、将来の農村社会はどのような社会でしょうか。現在の志賀郷地区を考えると、将来もまた農業を共通の基盤とする農村生活者からなる社会でしょう。現在の農村にはまず現役の農業従事者がいます。農村や近郊都市で他業種(公務員、農協、企業、商店等)に勤務しながら田舎に住み自給農業をする人がいます。さらにかつて農業に従事していたが現在は高齢のため年金生活をしながら自給のための野菜つくり等をたのしむ人、かつて都会でサラリーマン生活をしていたが定年後田舎に移り(帰り)年金生活をしながら田舎生活と自給農業をたのしむ人がいます。また、人ごみからはなれて田舎で創作活動に取り組む芸術家もいるかもしれません。さらに、兼業農家・専業農家としての新規就農をめざす人が農業入門・田舎生活入門として農村に住むこともあるでしょう。今後、構成員の比率や近隣の都市部との関係は変化するだろうし、その詳しい検討が必要ですが、いずれにしろ将来の農村は上記のさまざまな人々からなる社会でしょう。また、その農村がどんな魅力のある(あるいは住がいのある)地域であるのかについても議論が必要です。しかしいずれの場合にもその共通基盤は里山景観と自給農業ではないかと思います。
自給農業をすべての農村生活者の共通の原点に:
・自給農業はすべての農村生活者の共通の基礎・原点です。私たちはすべての農村地区に「耕作地をもたずに農村に移住してきた人やマイクロ農業をしながら老後生活をおくろうとする人のために、自給農業にとりくむための農園(自給農園:耕地面積5a~10a/世帯)を準備する」ことを提案します。農村移住者の多くが「移住に当たって最も難しかったことは農地の取得(借地)だった」と述べています。この問題の解決は農村地区自身にかかっています。自給農業が移住者と既生活者との間の共通の場となり、協力して農村の将来をつくりあげる基礎となるでしょう。
・自給農業のための農地は購入ではなく借地によるのが適切です。稲作のための水田は、2人家族で4a、4人家族では8aあれば十分でしょう。野菜つくりの畑は、4人までの家族で1a(100m2)あれば十分でしょう。この農地はあくまでも自給農業が目的です。自給利用で余った分は販売することもできますが、大量に作って販売することが目的ではありません。大量に必要とする場合は地元のプロ農家から購入します。
・かつては農地法により農地の貸借には厳しい条件が設けられていましたが、現在はこの条件はおおはばに緩められています。「最低面積要件」は廃止されました。また、「農作業常時従事要件」は借地の場合は大幅に緩められました(くわしくは「農地取得と耕作者資格」参照)。
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コンパクトシティー構想
2040年までに896の自治体が消滅する
令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート―新たな地域別将来推計人口から分かる自治体の実情と課題― 令和 6 年 4 月 24 日 人口戦略会議
コンパクトシティーとは
コンパクトシティとは?失敗が多いって本当?事例をもとに解説します
コンパクトシティとは?新しい街づくりの事例から見るコンパクトシティのメリット
コンパクトシティはなぜ失敗するのか 富山、青森から見る居住の自由
かしこく収縮する地方都市
コンパクトシティーの成功例
金沢市
金沢版コンパクトシティのすすめ―30 年後の金沢を見据えて―
かしこく収縮する町と村
美咲町(岡山県)
女川町(宮城県)
舟橋村(富山県)
海士町(島根県隠岐の島)
令和6年2月27日(火曜日)に、食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案が第213回国会(令和6年 常会)に提出されました。
以下のHPをご覧ください。
「第213回国会(令和6年 常会)提出法律案」(農林水産省HP)https://www.maff.go.jp/j/law/bill/213/index.html
「食料・農業・農村基本法」(農林水産省HP)
https://www.maff.go.jp/j/basiclaw/index.html